看護師として働いていれば、「薬の量を間違えた!」「点滴のスピードを早くしすぎた!」などの過ちを犯してしまうことがあります。

医療従事者は誰でも、最大限の注意を払っていますが、人間のすることにミスはつきものです。

 

思わぬ失敗をして「報告書」を書くように言われたら、どうしたらいいのでしょうか。

 

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医療現場における「ヒヤリハット」「インシデント」「アクシデント」とは

 

この3つの言葉の定義には、いくつかの考え方があります。

 

一番細かい分け方は、

「ヒヤリハット」とは

ミスを犯しかけたが、途中で気づき、患者さんには影響がなかった事象。

「インシデント」とは

ミスを犯して、誤ったことを行ったが、結果的には患者さんには影響がなかった事象。

「アクシデント」とは

ミスを犯して、患者さんの心身に影響を及ぼし、何らかの処置が必要となってしまった事象。

という定義です。

 

簡単に言えば、ミスのせいで患者さんに悪い影響が出てしまったのがアクシデント、悪い影響がなかったのがインシデント、ミスの前に気づいたのがヒヤリハットです。

しかし、「ヒヤリハット」と「インシデント」は、「重大事故には至らなかった」という共通点があるため、分けて考えないことも多く、厚生労働書でも次の引用のように、インシデントとヒヤリハットを同じ意味と見ていますので、この記事でも、ヒヤリハットはインシデントに含まれるという見方を取りたいと思います。

 

「アクシデント」は通常、医療事故に相当する用語として用いる。(中略)同義として「事故」を用いる。

「インシデント」は、日常診療の場で、誤った医療行為などが患者に実施される前に発見されたもの、あるいは、誤った医療行為などが実施されたが、結果として患者に影響を及ぼすに至らなかったものをいう。(中略)同義として「ヒヤリハット」を用いる。

 

具体的な事例で見る、インシデントとアクシデント

【インシデントの事例】

患者に薬剤を投与する際、投与の量を誤っていたが、他の看護師が誤りに気づき、患者には正しい分量の薬剤が投与された。

または、誤った量の薬剤が投与されたが、患者の状況に悪い影響はなく、何らかの処置を行う必要はなかった。

 

【アクシデントの事例】

患者に薬剤の量を誤って投与してしまい、それによって患者の容態が悪化し、本来なら必要のない治療が必要になってしまった。

 

このように、患者に対する影響の大きさによって、「インシデント」「アクシデント」が区別されています。

 

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インシデントレポートは、どうやって作成する?

 

インシデントレポートの目的は?

重大な事故が1件起こったときには、その前に29件の軽い事故と300件のヒヤリハット事例が起きているといわれます(ハインリヒの法則)。

 

ヒヤリハットまたはインシデントを見逃さないで、どのようなときに、何が原因で、どういう事故が起きたか(起きそうになったか)という情報をもとに原因を究明すれば、重大な事故の防止に役立つのです。

 

ですから、インシデントレポートの目的は、事故につながるミスの情報をみんなで共有して、今後の事故を未然に防ぐというものです。

決して、犯人捜しやミスした人を責めるためのものではありません

 

自分の失敗はあまり表に出したくはないものですが、インシデントレポートを書くことで、より重大な事故を防ぐことにつながりますから、ありのままを書いていきましょう。

 

インシデントレポートの書き方

5W1Hを基本に、具体的に書いていきましょう。

さらに、ミスの原因や、反省点、今後の改善点を書いておきます。

 

厚生労働省ホームページによると、国立病院・療養所での「ヒヤリハット体験報告」に記入する項目は次のとおりです。

  • 体験者の経験年数
  • 日時・場所・当時の多忙度
  • 出来事の領域別分類
  • 患者の年齢・性別・心理状態
  • 「ヒヤリハット」の内容
  • 未然に防ぎ得たことであれば、どうすれば防止できましたか?
  • この体験から得た教訓やアドバイスはありますか?

 

インシデントレポートのテンプレート

法令で決められた書式はありません。

病院でインシデントの報告書の用紙が準備されていることもありますが、決まったテンプレートがなければ、次のようなことを書いていきます。

 

1、発生した日時

 

2、患者に関する情報(氏名・性別・年齢など)

 

3、インシデントが発生した場所

 

4、インシデントに関わった看護師名、経験年数など

 

5、インシデントの内容分類(該当するものを選ぶ)

  • 注射
  • 内服
  • 検査
  • チューブ、ドレーン
  • 人工呼吸器
  • 医療機器
  • 転倒、転落

 

6、インシデントの原因と思われるもの(該当するものを選ぶ)

  • 知識不足
  • 技術不足
  • 連絡の行き違い
  • 思い込み
  • 見落し

 

7、インシデントの内容(具体的に)

 

8、原因説明(具体的に)

 

9、対策

 

10、反省・教訓など

 

インシデントレポートの事例

(看護師本人による報告)

1、発生した日時

20〇〇年〇月〇日午後〇時

 

2、患者に関する情報

入院患者Aさん(男性・45歳・糖尿病で入院中)

入院患者Bさん(男性・66歳・糖尿病で入院中)

 

3、インシデントが発生した場所

内科入院病棟

 

4、インシデントに関わった看護師名、経験年数など

看護師C(経験年数2年)

 

5、インシデントの内容分類

注射

 

6、インシデントの原因と思われるもの

思い込み

 

7、インシデントの内容(具体的に)

糖尿病で入院中の患者Aさんに注射するインスリンを、同室のBさんに誤って注射してしまいそうになりました。

入院患者Aさんに注射するために病室に入りましたが、患者Bさんから内服薬についての質問を受けたため、Aさんに注射をする前にナースステーションに戻って確認して、Bさんに報告し、そのままBさんにインスリンを注射しそうになりました。名前を確認したときに、Bさんが誤りに気づきました。

 

8、原因

完全に私のうっかりミスです。Aさんへの注射を済ませて、Bさんに対応すべきでした。行動を中断して他のことを行った後、もとの行動を続けようとすると注意が散漫になりがちだと、学校で教えられていました。ですから、行動を中断させないように努めるべきでした。

 

9、対策

注射・与薬の際には、名前を確認することを怠ってはいけないことを再確認しました。

 

10、反省・教訓など

今回は事なきを得ましたが、もし、実際に誤注射がなされたら、Aさん、Bさんのどちらにも健康被害が起きる可能性があった事案だと、医師から注意を受けました。

医療従事者は、自分の行為が人命を危険にさらすことがあることを肝に銘じなければならないと思いました。

 

アクシデントレポートの書き方

 

アクシデントの場合は、すでに事故が起こってしまったのですから、「事故報告書」的なものになる可能性もあります。

多くの病院では、フォーマットがあるはずですから、それに沿って書いていけばいいでしょう。

 

厚生労働省のホームページで閲覧できる、「国立病院・療養所における医療安全管理のための指針」では、医療事故に関しての報告は、院内報告書と、地方厚生(支)局、本省への報告書の2種類が必要です。

参照:

医療事故報告書 (院内報告書)

医療事故報告書(地方厚生(支)局、本省への報告書)

 

院内報告書では、日時や患者の氏名などの情報以外は、

  • 事故の状況
  • 主治医の指示
  • 対応の概要
  • 結果の概要、患者・家族の反応等
  • 警察への届け出の有無
  • 事故原因の分析
  • 事故の教訓と事故防止のための提言
  • 職場の長の意見

を記すようになっています。

 

地方厚生(支)局、本省への報告書では、院内報告書で記載した内容以外にも、

  • 関与者の氏名・職種
  • 賠償保険の加入の有無
  • 当該事故に係る検証状況

などの記載も求められています。

 

「ヒヤリハット体験報告」よりも、かなり詳細に、厳密に報告する必要があることがわかります。

報告書の定型が決められていない病院でも、同じように、インシデントレポートよりも、アクシデントレポートの方が、より詳細な報告が必要だということが推測されます。

また、提出する時期も、事故のあとは早目に提出するべきです。

 

アクシデントレポートのテンプレート

1、発生した日時

2、患者に関する情報(氏名・性別・年齢など)

3、アクシデントが発生した場所

4、アクシデントに関わった看護師名、経験年数など

 

5、アクシデントの内容分類

  • 注射
  • 内服
  • 検査
  • チューブ、ドレーン
  • 人工呼吸器
  • 医療機器
  • 転倒、転落

 

6、アクシデントの原因と思われるもの

  • 知識不足
  • 技術不足
  • 連絡の行き違い
  • 思い込み
  • 見落し

 

7、アクシデントの内容(具体的に)

8、アクシデント後の対応・医師の処置

9、原因説明(具体的に)

10、対策

11、反省・教訓など

12、患者本人、家族への説明状況

13、賠償・補償に関して

14、警察への届け出と捜査状況

15、原因の説明のまとめ

16、今後の対策

17、反省・教訓など

18、責任者の意見

 

インシデントレポートの時にはなかった8と12~18の項目が加わっています。

アクシデントが起きると、患者さんに被害が出て、最悪の場合は死亡するケースもあります。

ですから、患者さんやご家族への説明や補償、警察の捜査までもがレポートに記載されることになります。

 

アクシデントレポートの事例

(看護師長による報告)

1、発生した日時

20〇〇年〇月〇日 午後〇時ごろ(食事の時間で介助などのために忙しい時間帯)

 

2、患者に関する情報

Dさん(女性・75歳・脳梗塞後の麻痺あり)

 

3、アクシデントが発生した場所

脳外科入院病棟〇〇号室

 

4、アクシデントに関わった看護師名、経験年数など

看護師E(看護師経験10年)

 

5、アクシデントの内容分類

転倒、転落

 

6、アクシデントの原因と思われるもの

注意不足

 

7、アクシデントの内容(具体的に)

食事介助が必要なDさんのベッドを90度に上げ、座位の姿勢で上半身を起こした。普段は倒れないように両脇をクッションで支えていたが、その日は忙しかったため、両脇を支えることをせず、配膳のために病室外へ出た。食事を持って病室へ戻ってくると、Dさんがベッドから転落して床に倒れて叫び声を上げていた。

このことで、Dさんは、肩と腰を強打した。

 

8、アクシデント後の対応・医師の処置

すぐに医師に連絡、レントゲンで検査した。骨折などの重大な状態ではなかったものの、湿布での治療が必要と診断された。

 

9、原因説明(具体的に)

Dさんは看護師が目を離した間にバランスを崩し、横に倒れたようである。Dさん自身も自分で体を動かそうと思って力を入れたが、うまく動けないために、逆にベッドからはみ出すような方向に動いて転落してしまった。転落防止の柵は外してあった。

 

10、対策

転倒・転落の可能性のある患者さんを、転倒・転落しやすい状況に放置しないこと。

食事の際は、食事を先に運んでから、患者さんの体を起こすようにする。

 

11、反省・教訓など

「まさか」ということが起きるのが医療の現場だと、改めて感じた。見守りの必要な患者さんから目を離さないということが大切だと思った。Dさんには大変気の毒なことをしたと、看護師は反省している。

 

12、患者本人、家族への対応、説明状況

本人には、医師が病状を説明し、看護師は深く謝罪した。

家族には、来院時に主治医と看護師が説明し謝罪した。患者本人も家族も、状況を理解してくれている。

 

13、賠償・補償に関して

今回は骨折などの重大な結果は起きず、患者本人と家族は補償を求めなかったため、賠償や補償に関しては行っていない。

レントゲンや湿布など、転落に起因する治療の医療費は病院が負担した。

 

14、警察への届け出と捜査状況

今回、重大な結果に至らなかったため、警察へは届け出ていない。

 

15、原因の説明のまとめ

わずかな時間だからと油断したことが原因で起こった事故。一般的には転落には不可抗力の要素もあるが、今回は、不安定な状況に患者を置いてしまったことが最大の要因だと言える。

 

16、今後の対策

転倒・転落の危険のある患者さんをひとりにしないことが大事。転落防止柵も使う必要がある。

 

17、反省・教訓など

大丈夫だろう、という思い込みを捨てること。常に最悪の状況を想定すること。

 

18、責任者の意見

転倒・転落は病院の中のアクシデントの中でも起きる頻度の高いものである。どれだけ気をつけても気をつけ過ぎるということはないと言える。看護師の負担は大きいが、このアクシデントを契機に、病院全体で患者さんの安全を今まで以上に大切にするように指導していきたい。(病院長)

 

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報告書は始末書ではない

 

インシデントにせよ、アクシデントにせよ、「レポート」・「報告書」は「始末書」とは異なります。

 

始末書とは、過失を反省し、今後このようなミスを繰り返さないようにするために事情とお詫びの気持ちを書いて提出するものです。

 

報告書は、インシデントやアクシデントの経緯を、その事例を知らない医師や看護師に伝えるというのが目的です。

なぜ、どういう経緯で、どういうミスを犯したのかをしっかり確認し、今後の医療に生かすためにあるものです。

自分に有利になるように事実を曲げて書いたりせず、今後、同じことが起きないような対策を講じるために報告書が使われるのだと考えて、正確に書きましょう。

 

他の人のインシデントレポート・アクシデントレポートを見るときは、自分だったらどうするだろうか、と自分のものとして読まなくてはいけません。

「こんなミスをするなんて、どうかしているんじゃないの?」などと批判したり、面白がったりする看護師もいますが、インシデント・アクシデントレポートの意味を考えると、そんなことはできません。

 

インシデントやアクシデントが辛くて、辞めたくなったら

 

医療の現場で命を預かる看護師にとって、自分がインシデントやアクシデントを起こしてしまうと、責任を感じざるを得えません。

繰り返して起こすようであれば、周囲からの批判もあるでしょうし、なにより自分が辛い気持ちになります。

 

今後の仕事に自信を失ったり、自己嫌悪に陥ったりして「辞めたい」と思うこともあるかもしれません。

事実、重大な事故を起こして看護師を辞めてしまう人や、辞めないまでも、しばらく休職する人もいます。

 

「インシデントやアクシデントがいやだから辞めたい……」そんな気持になってしまうときは、どう考えたらよいのでしょうか。

 

研鑽に励む

もう二度とインシデントやアクシデントを起こさないという決意で、投薬の際にはしっかり確認し、注射などの技術を磨きましょう。

試練だと思い、乗り越える強さを身につけましょう。

 

看護師賠償保険に加入する

看護師個人が訴えられたときのための保険が、損害保険会社から販売されていますので、加入するということも、お守り的な安心材料になるでしょう。

もちろん看護師賠償保険を使う必要がない方がよいですけれども。

 

初心を思い出す

看護師を志したときの気持ちを思い出しましょう。

看護学校に入学したとき。戴帽式のとき。

初めて病院に勤務したとき。

きっと、「何があっても負けない!」と思っていたはずです。

 

どうしても、辞めたいなら

とりあえず、先輩の看護師さんや周囲の人たちに相談してみましょう。

的確なアドバイスをしてくれるはずです。

 

「イザとなったら、看護師の資格を生かせる仕事はたくさんあるわ!」というくらいの大らかな気持になりましょう。

あまり思い詰めないでください。

 

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まとめ

 

ヒヤリハットとは、看護の仕事の中でミスを犯しかけたが、途中で気づくことができて、患者さんに悪影響が及ぶのを回避できたこと。

インシデントとは、看護の仕事のなかで、何らかのミスを犯したけれども、患者さんの心身に影響がでなかったこと。(ヒヤリハットを含んで言うこともある)

アクシデントとは、ミスを犯し、患者さんの心身に影響が出てしまったこと。

 

これらが起きてしまったときは、他の医療従事者と情報を共有し、今後の医療を改善するために報告書を書くことを求められます。

起きた事象の経過や、ミスの原因を正確に書きましょう。

それが、今後の対策に役立つのです。

 

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